猫問題と猫妖怪存亡の危機 - 猫又, 猫神, 妖怪検定上級 過去問

妖怪生物多様性(3) ご当地検定(5)

猫問題と猫妖怪存亡の危機
水木しげる先生亡き後、妖怪文化を保存継承する為に我々は何をすべきだろうか。現在の猫問題を通して、猫妖怪存亡の危機について考察する。小論文(1200字), 妖怪検定上級 過去問

 妖怪は、人が立ち入ることの少ない自然や夜の暗闇の中に潜む。しかし近年の宅地開発の影響でそれらは減り、同時に妖怪文化も衰退しつつある。そして今、別の事情で存亡の危機に瀕しているのが「猫妖怪」である。

 少し前まで、猫は外を自由に徘徊するものと考えられていたが今は違う。近年の猫ブームで「外の猫」が増え、住宅敷地内での糞尿問題、発情期のケンカや鳴き声による騒音問題などの、いわゆる「猫害」が急増したことで、外の猫が疎まれる傾向にあるようだ。
 また、猫のフンは人畜共通感染症トキソプラズマを媒介する。さらに猫は、「世界の侵略的外来種ワースト百」に選出されており、地域の生態系に悪影響を及ぼすという。
 これらの問題を解消するため、近頃は保護譲渡や不妊去勢手術によって外の猫を減らす活動が行われており、最終的に外の猫をゼロにすることを目標に掲げている団体も多い。
 しかし、日本人は自由気ままな外の猫に神秘性を感じてきた。猫の妖力の源泉は自然の中にこそある。妖怪文化を守るため、この流れは決して看過できない。

 猫神は養蚕の守護神として崇められた。これは鼠による蚕の食害を避けるため、養蚕農家が猫を飼養したことから始まる、猫の益獣としての側面が神格化されたものである。
 一方、同じ猫神でも徳島県の「お松大権現」には、飼い猫が妖怪変化となり、主人の仇を討ったという伝説がある。こちらは養蚕守護の猫神とは対象的に、猫の妖力が神格化されたものであり、その正体は猫又だと考えられる。
 猫又は老齢の飼い猫の尾が二股に分かれ、霊力を得た妖怪として知られているが、意外にも文献上の初出は山中に住む魔物・猫胯(ねこまた)としてである。
 猫の飼養が一般化された後も、山中で見かけた猫は、マガリ、トンスケなどの山言葉で呼ばれることがあった。その背景には、山や森など人が立ち入ることの少ない自然を、神や霊魂の住処と考えた日本古来の思想がある。山や森などの他界と人の暮らす里、さらに人の生活の最小単位である家を自由気ままに徘徊できる猫は、極めて霊性の高い動物だと言えよう。
 そのような猫から自然を切り離す行為は、猫から霊性を奪うことに等しい。これは猫妖怪存亡の危機であり、妖怪文化の衰退に直結する憂慮すべき事態なのである。

 とは言え、外の猫の交通事故死は多く、伝染病の感染率も高い。また、猫害の影響なのか猫嫌いが増え、虐待のリスクも高まっている。行政に保護されたとしても、譲渡先が見つからなければ殺処分の可能性すらある。
 外の猫を取り巻く環境は非常に厳しい。ここは猫の幸せを第一に考え、外の猫を減らす活動に賛同すべきである。これから消えゆくであろう一つの妖怪文化をしっかり見届け、後世に伝えていかなければならない。

<参考文献>
渋谷寛『ねこの法律とお金』廣済堂出版/ピーター・P・マラ『ネコ・かわいい殺し屋 - 生態系への影響を科学する』築地書館/小栗有子 他2名『奄美のノネコ -猫の問いかけ-』南方新社/『企画展「すごすぎる! ねこ展~ヒトとネコの出会いと共存の歴史~」展示図録』山梨県立博物館/桜井徳太郎『民間信仰辞典』東京堂出版/笹間良彦『図説 日本未確認生物事典』角川ソフィア文庫/高橋御山人『高橋御山人の百社巡礼/其之七拾六 徳島の山間 高知の秘境 四国の猫神様:「犬神」だけではなかった!四国の山間に鎮まる「猫神」の神社とその伝承を訪ねて』株式会社リブラ・エージェンシー/水木しげる『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』講談社/新谷尚紀, 関沢まゆみ『民俗小事典 死と葬送』吉川弘文館

Posted by 米田むー

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